其の⑱…ここから飛び立った悲劇
夜中に入国したのでサイパン空港の全貌を目にするのはこの時が初めてだった。帰国も夜中なので、このツアーに参加していなかったら一度もその姿を見ることがなかったかもしれない。サイパン空港の歴史をひも解いてみる。ここは最初日本の空軍が滑走路を造り飛行場として使用していた。サイパン陥落後はアメリカが空軍の飛行場としてそのまま使用した。そして戦後サイパン空港として使用されているのだ。そのため飛行場のそばには今も朽ちた戦車などが放置されている。
飛行場の一角に写真入りの記念碑が建てられている。そこには『戦争を終結させた飛行場』と記されている。アメリカ軍がサイパン島を手に入れたかったのは、ここから日本に向けて飛行機を飛ばしたかったからだ。サイパンの陥落は日本の敗戦への始まりでもあった。爆弾を携えたB29が日本を目指して飛び立った。その後のことは語るまでもないだろう。
広島、長崎に落とされた原爆はテニアン島から飛び立ち、空襲で日本の都市を焦土と化した爆弾はこの飛行場から飛び立った。『戦争を終結させた…』確かにそうなのかもしれないがなんだか腑に落ちない言葉だ。戦争について語るのはとても難しい。どちらにも正義があり言い分もある。ただ私の感覚では『戦争の悲劇に拍車をかけた飛行場』ではないのかと思う。数多くの悲劇を生んだ戦闘機が離陸した飛行場。ここに私は降り立ったのだ。そして明日またここから飛び立つ。
飛行場を出て海辺に向かったが、なぜかその場所のことはあまり覚えていない。最後に地元の人々の住宅街を走る。戦前の日本風の家屋が二軒ほど現存していた。懐かしい造りだ。そのうちの一軒にはまだ人が暮らしているらしい。車はホテルに向かう。ガイドの津田さんと回ったヒストリカルツアーもいよいよ終わりだ。津田さんからは本当にたくさんの大切なことを教わった。日本人以上に日本のことを思ってくれていた。今回の旅の一番の目的であったツアーが終わった。しかしうずめのサイパンはまだ終わらない。次のキーワードはインドだよ(笑)