第一部 覚醒<上><下>
『玻璃真人新記 真言の…』は、一人の若者が次々と迫り来る試練を乗り越え、誠の声に導かれて成長していく物語である。
主人公の八重垣 真言(マコト)は、どこにでもいるような普通の高校二年生。
ところがある日、母の運転する車に同乗中、対向してきたトレーラーと正面衝突し、母を失う。
それは、悪の組織シュラ教団による故意の事故で、実は教団の悪事に気づいて脱会しようとする高原 葉子(ヨウコ)の車を狙ったものだった。
生き残ったマコトは、玻璃真人(ハリマビト)を名乗る長田 司(オサ)により、ヨウコとともに繭良村(マユラムラ)へ匿われ、そこで事件の真相を知る。
ハリマビトとは、水晶のように澄んだ心で、この世の悪を正す使命を帯びた人々。武力や暴力ではなく、慈悲の心で、邪悪な考えに取りつかれた人々を救済するのだ。
自らもハリマビトであることを告げられたマコトは、村の自然に癒され、オサの教えに学び、新しい級友との友情を育む中で、秘められた能力を開花させていく。
第一部の上巻では、交通事故をきっかけにハリマビトとして目覚めたマコトが、シュラ教団のテロ計画を予知して防ぎ、同級生間の陰湿なイジメを察知して、独創的な方法で解決する。
下巻では、サイキックと進化したマコトが、教団員となった旧友を救出するとともに、マコトをはじめとする玻璃真人グループが、シュラ教団と全面対決する。
修羅とは、戦闘や騒乱、妬み、そねみなどが渦巻く現世の影の象徴であり、シュラ教団とは、テロによってそれを変えようとする厭世的カルト教団。誰もが地下鉄サリン事件のオウム真理教を想起されようが、著者の意図は、単純な勧善懲悪にあるのではない。
誰の心にも潜む正義と悪、光と影の声を聞き分け、真実の声によって生きようと呼びかけているのだ。それには、人間らしい住環境や食生活、対人関係が基本なのだ。
本書は新美 宇受女の処女作であり、心理や情景の描写、事件のリアリティなど細部に力不足は感じるものの、全体として破綻の無い長編に仕上がっている。上下巻とも五百ページを越えているが、文字が大きく、余白もたっぷりとられているので、思いのほか読みやすい。中高生には青春小説として、また修羅を生きる大人の読み物としてもお勧めできる。
第二部でどんなエピソードが待っているのか、マコトがどのような成長を遂げるのか、早く知りたいところだ。
(NAGI発行人 吉川 和之)
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八重垣 真言 (17歳)
主人公。高校2年生。新興宗教の『シュラ教団』の陰謀に巻き込まれたのをきっかけに、
玻璃真人として目覚める。
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長田 司 (43歳)
真言を父親の様に見守り、その魂の成長を助け、導く玻璃真人。
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長田 舞香 (12歳)
司の娘。真言の心を癒す妹的存在。
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高原 葉子 (36歳)
シュラ教団の裏を知ってしまったことから、命を狙われている元教団幹部。
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本宮 松子 (69歳)
長田の家の家事を切り盛りする舞香のお祖母さん的存在。
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瀧澤 遼一 (17歳)
真言の転校先での親友。聡明さと行動力を持ち合わせた真言の兄貴分的存在。
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米原 美月 (17歳)
真言の転校先のクラスメイト。