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玻璃真人新記 真言の…
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第三部<響命(きょうめい)> 一部抜粋
2020年4月4日 (土)

4月1日に第三部のクライマックス部分を一気に書き上げました。第三部全体はまたまた長文なので、本という形になるのはまだ先になりそうです。でも、この部分は早く共有したいと思ったので抜粋しました。よろしければ読んでみてください。

 

玻璃真人新記 真言(まこと)の… 第三部<響命(きょうめい)>〜抜粋〜

 

『あ〜ぁ。何てことだ。このタイミングで橋が崩れるなんて…。でも渡っている途中で無くて助かったよ』

大きくため息をつくと真言は辺りを見回した。

カラスの姿は既に無かった。

『え?おい。どこに行ったんだよ。道案内をしてくれていたんじゃなかったのか?』

何か重要なメッセージを携えているに違いないと思っていたカラスが姿を消してしまったので、真言は拍子抜けした。

『何のためにオレはここまで来たんだ?またユリカさんやオサたちに迷惑を掛けることになったし…』

そう思った時に、真言の頭の中に声が響いた。

『答えを知りたくは無いのか?』

『誰?』

真言は再び周囲を見回した。

「答えって何の?」

真言は思わず声に出してたずねた。

メッセージを送ってきた相手を知ろうと真言は目を閉じた。大きく枝を広げた一本の木が浮かんだ。

『何の木だろう?コナラ?いや、ブナ。白ブナの木だ』

五月のフィールド・アドベンチャー部の合宿以来、木の種類を覚えることに努めた真言には、それが白ブナの木であることが分かった。

『今日お前がずっと抱いている問いの答えを知りたいか?』

もう一度声が響いた。

『知りたい』

真言がそう答えると、先ほどのカラスが再び真言の前に姿を現した。百合香との約束を破るのは忍びなかったが、真言はカラスを追って歩き出した。

反射的に「知りたい」と答えて歩き出した真言だったが、自分がいったいどんな疑問を抱き続けていたのか正直なところ分から無かった。

谷から五百メートルほど森の中に入った場所で、カラスが真言の頭上を旋回して空の向こうに消えていった。

『ありがとう。ここだね』

真言はカラスに礼を述べてからイメージの木を探した。目的の木はすぐに見つかった。しかしその木は想像していたものと異なっていたので。真言は少し驚いた。木の根元まで行って幹を見上げるとまた言葉が響いた。

『想像よりも小さな木だと思って驚いているようだな』

自分の思いを見透かされた真言は素直にうなずいた。

『人間というのは面白い。樹齢何百年年という木は神が宿る神木だと言い大切に祀る。そして人にメッセージを伝えることができる木ともなると、何人も手を繋がねば囲みきれ無い巨木であると思い込んでいる。私の仲間にも樹齢四百年を超えるものもいる。しかし私はたかだか樹齢数十年でお前が二人いれば十分に幹を囲める。この山の中でいくらでも見つけることができる大きさだ。人間は自分勝手な思い込みに支配されている。我々に違いなど無いのだ。年老いた巨木であろうとヒヨロヒョロとした若木であろうと、同じ智慧を持ち同じ情報を共有している。我々の間には分離というものが無いからだ。以前お前が出会った銀杏の木が、伐採される自分の運命を受け入れたのは、これから育つ若木と自分が同じものであることを知っていたからだ。我々には命の分離も無い』

真言は返す言葉を持たなかった。自分が白ブナの言う思い込みに囚われていたからだ。

『お前はここに来る必要さえなかった。私がこれからお前に伝えることは、家の庭木から聞くこともできたのだ。お前が耳を傾けようとしなかっただけで、どの植物も伝える術を持っている。大楠だから、歴史的意味がある大銀杏だから繋がったわけではない。お前の意識が繋がれると信じたからだ』

白ブナの言葉が途切れ、真言は大きなため息をついた。

『では、お前の聞きたいことは何だ』

白ブナが真言にたずねた。

『聞きたいこと…』

真言はしばらく考えてから言った。

『今日オレが抱いていた問いとは、植物は人類が滅びることを望んでいるのかということです。タナシロ教授の計画に協力して…』

『あの男はこの山に何度か訪れて我々と繋がることを試みた。会話の対象に選んだのはお前の思い描いたような樹齢数百年のカツラの老木だった。カツラの木に訴えたあの男の思いは、この山の植物全体が共有している。もちろん私もあの男が伝えてきたメッセージを理解している。あの男は我々に、地球を救うために力を貸して欲しいと訴えてきた。人類がこのままの在り方を続ける限り、地球の滅亡は避けられ無いと。人間の愚かな暴走を止めることはもう不可能だから、地球が破壊し尽くされる前に人類を滅ぼしたいと』

真言が白ブナに聞いた。

『あなたは…植物たちはそれにどう答えたのですか?』
『世界中の仲間たちが人間の存在に疑問を抱き始めている。このまま人類を放置しておいて良いのかと植物たちは思っている。しかし、我々は人類を滅ぼそうと思った事はない。我々の中にそういう意識は存在していないのだ。地球のこれまでの歴史の中で、人類は何度も自然を壊滅させてきた。しかし私たちは人類を滅ぼそうとはしなかった。そして焦土に再び芽を出し、長い年月を経て今の自然が作り上げられた』

『ではタナシロ教授の計画に協力をする意思はないということですか?』

真言が白ブナの真意を確かめた。

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